おはなしりぼん2002秋号
 
 
大きいことは良いことだ?

  私がりぼんの「家事援助サービス」を利用し始めてほぼ三年が経ちます。元々、私は脳性麻痺なのですが、脳性麻痺から来る障害自体は軽く、日常生活や仕事はほとんど支障なく出来ていました。とはいえ、所詮は障害のある身、自分の意識とは裏腹にかなり無理をしていたようで、働き始めた直後から脳性麻痺特有の頚部の痛みが出てきました。

 それから十数年の間に頚部の状態は時すでに遅しの状態となり、坂から転げ落ちるかのように障害状況が悪化し、仕事もドクターストップを受け、自宅での療養生活を余儀なくされました。
 当初はまだ、かろうじて歩く事は出来たのですが、頚部に負担を掛けないようにするために装着した頸椎装具のため、足下がほとんど見えなくなってしまいました。
「借金で首が回らない」なんて、冗談なら笑えるのですが、本当に首が完全固定の状態となり、真下が見えないので転びでもして首を痛めようものなら、状態がさらに悪化してしまうので無理して歩くよりは車いすを利用した方が無難だということで電動車いすの申請をしました。

 自分が当初考えていた電動車いす利用の目的は、近所の買い物や、通院に使うなど、主には外出に使えればいいと軽く考えていました。
 しかし、私は重要なことに気づいてなかったのです。そう、自分の体が大きいと言うことを……。身長が一七八p、体重九〇s(訳あり)。こう書いてしまうと、「なんだ、今の若い人じゃ普通じゃないの(体重以外は)」と思うかもしれませんが、いざ車いすを利用する状態になると、体が大きい事自体が、日本の福祉機器によって障害になることを。

 当初交付された、電動車いすは国内メーカーではごく一般的な製品で、それ程珍しい物ではありませんでした。しかし、普通の人よりも大きめのサイズに改造を依頼していたので、申請してから二ヶ月ぐらいして自分の手元にきました。来たその日は、おもちゃを買ってもらった子供のように、喜んでその辺をなんの目的もあるでもなく走りまわっていました。
 しかし、乗った当初は気がつかなかったのですが、しばらくしてふと考えると、バッテリーの減りがやけに早い事に気がつきました。
 家のそばにあるコンビニまで片道歩いて二十分位、距離にして往復で四キロ走るとバッテリーが半分まで減ってしまうのでした。
 電動車いすのメーカーがカタログに書いていた公称走行距離が三〇キロ、積載最大重量が一〇〇sとなっているので、体重が最大積載重量に近いとはいえ(笑)、自分のバッテリーの減りは異常に早い。自宅とコンビニを二往復で下手をすると家まで帰れなくなるのです。一応、販売店に相談してメーカーにクレーム扱いでバッテリーとメインコントローラーを交換してもらったのですが、状況の改善はありませんでした。

 そのほかにも、自分は股下長がかなりあるので、足を載せるステップ位置が異常に低くなり、路面との接点が五pぐらいしか保てないため、ちょっとした段差や路肩の切り落としでも擦ったりしてすぐにステップが曲がってしまうという問題もありました。
 そのため、ステップの問題は自己努力で解決出来ないとしても、痩せれば多少は走行距離が良くなるかと、半年ぐらいの間減量し一〇s弱体重を落とせたのですが、如何せん運動で痩せるわけではないので痩せるのにも限界があります。
 自分としても「なんで電動に乗るのに自分がこんなに苦労しなきゃいけないんだ?」と疑問と限界を感じてきました。

 そこで市役所の地区担当ケースワーカーに相談してみると、「バッテリーの数を増やしたら」と軽く言われ、「こりゃ
が明かないわ」と思い、販売業者とも相談した結果、福祉装具の交付判定を行うセンターに現状を話し、電動車いすの基準外交付が出来ないかを相談してみることにしました。
 相談内容としては、バッテリー能力の問題からくる走行距離の問題と、住んでいる場所が田舎なのも原因なのですが、路面状況が悪く、先に書いたように足を載せるステップが路面と擦ってしまい半年の間に五回交換していることや、頚部の障害のため垂直姿勢が長いと頚部に痛みがきてしまいかなりきつくなることなど、その時点での問題点をすべて話しました。
 その後、業者と役所のケースワーカーを交えて問題点をクリアする車いす選びの話となり、結局「私の体型が日本の標準的な障害者の体型からは、かけ離れているため、日本製の車いすでは解決出来ない」と言う結論から、体型や障害に対して柔軟な対応が出来る外国製の物を選択するしかないだろうというということになりました。
 しかし、外国製の電動車いすは高性能であるだけに値段も高く、日本の電動車いすと同様な仕様でも値段はほぼ倍近く、非常に高価な物でした。
 他の地域に比べ、福祉に対して気っ風の良い東京都とはいえ、出来るだけ私の要望をかなえつつ、一番低予算でということで、車種はだんだん絞られていきました。
 結局ドイツで作られている物が気候的な問題や予算的な問題も含め「良い」と言うことになりほぼ車種が決まり、交付されることになりました。
 相談を持ちかけたのが八月で、電動車いすが手元に来たのが十二月なので、ほぼ一年での乗り換えとなり、通常は何もなければ五年〜六年での交付間隔なので、このときの措置は大変ありがたいものでした。
 しかし世の中それ程甘くはなく、自分の大柄な体型にあった大きい電動車いすは、日本の他の規格には沿っていないので、今度は車いす以外の問題が山のように出てきたのです。

 新たな問題としては、車いす自体が一六〇キロと非常に重く(日本製電動車いすの倍以上の重さ)、それに自分が荷物込みで九〇キロ近くとして、合計約二五〇キロ前後と一m四方の箱に、七五〇ccのバイクが入っている様なものと言えば解りやすいと思います。仮にエレベータもエスカレーターもなく階段しかないところに行ったとき、大人八人が片手で持って揚げられる代物ではないので行ける場所が限られます。また、仮にエスカレーターが車いす対応のものでも規格上は二〇〇キロが最大積載重量となっていることが多く、自分が乗ると止まるか、事故の原因にもなりかねなません。あと車いすが乗れるリフトバスのリフトも日本の規格だと最大積載重量が、ほとんどが二〇〇キロまでなので、市役所で走らせている車いすの移動サービス車の「わかこま号」はおろか、そのほかの民間リフトサービスも利用出来ないのです。

 「自分の体が大きく重いのが悪い」と言ってしまえばそれまでですが、いまの若い人の標準体型からすれば、それ程大きい部類には入らないと思います。

 人間いつ何時障害を持つ身になるかわかりません。そんな中、日本人の体型が欧米諸国に近づいている昨今、大柄な障害者が増えると、既存の施設なり福祉機器では対応出来ないことが多々出てきます。機器の開発には長い時間が掛かます。まして、建物などは一度作ると数十年使う事を考えると、もうそろそろ、日本も外国同様の規格で考えていかないと、手遅れになるように思えてしまいます。

 人も物も、器は大きければ許容範囲は広がりますが、小さいとその器に人が合わせることは非常に難しいのですから。


旅について

 
今年の夏の暑さはすごかったですね。何もする気が起きなくてひたすら秋が来るのを待つしかないような夏でした。さてそろそろ疲れもとれて少しは元気が出てきた頃ではないでしょうか。マンネリ化した日常とつかの間お別れして、旅の話に耳を傾けてみるのもいいのでは。

 海外旅行経験が豊富ということで、りぼん利用者Aさんにお話をきいてきました。Aさんは六十歳を過ぎてから海外旅行に行くようになり、現在七十四歳、おおよそ二十五カ国ほど行っているので年二〜三回出かけたことになります。
 ほとんど一般のツアーを利用してきました。歩行障害がありますが、障害者だからといって断られたことはないそうです。

 パリ、ロンドンから始めて、欧州、米国、オセアニアはもちろんですが、オーロラ、ナイアガラの滝、ナスカの地上絵、マチュピチュ遺跡、万里の長城、チベットのポタラ宮殿、ピラミッド、インドのタージマハルなどを見、南極のペンギンにまで会って来たとのこと。海外旅行というよりは世界遺産探検旅行のようです。

たとえば

 昨年行ったオーストラリアのエアズ・ロック、鎖一本で四十五度の傾斜を二時間かけて登ったそうですが、死ぬ思いとは言いながら登りきって、下りは二時間三十分かかったそう。写真で見ても草木一本生えていない岩山は、健常者でも途中で諦める人も多いのだとか。南極のペンギンに会うためには、一昼夜船酔いと戦いつつ荒波を乗り越えなければならないし、マチュピチュ遺跡に立つには急斜面をのぼらなければならない・・・そこまで行くのに体力、気力、想いなくしてはとてもいけそうにないような所ばかりです。

 十五年間、毎朝長房から大和田橋までサイクリングをしているそうですが、それが体力づくりになっているのですね。

 また行きたい所は?との質問に、住んでもいいのはオーストラリアだそうで世界遺産というのは、大変な辺境の地にあるののだからこそ今に残っているし、再度訪れるには大変なところなんだなあと納得しました。

 さて、海外で困ることといえば、まずトイレ。できるだけホテルですますようにするものの、先進国はともかく自然の豊な国々では鼻をつまんで入らなくてはならないこともしばしば。次に食べ物、食事があわなくて?お腹をこわしてしまったり、チベットあたりでは一般に食事といえば大麦の粉をお湯でといて塩で味付けしたものだけ(世界にはそういった国のほうが多いらしいです)ですからホテルで作ってくれたお弁当を食べていると周りに人が集まってくるなんてこともあったそうです。

 そして治安、イタリアではバスに置いたフィルム、タージマハルでは財布にカメラ、アフリカでも盗難にあったそうです。
 お金は必ずお財布を複数にして小分けにすること。パスポートは体につけておくしかないかも・・・
 ここまでくると、旅行も大変!と思うんですが、二十五回も行かれたということは、大変さに優る魅力があるということですよね。
 さて、軟弱者は、世界遺産の旅はビデオで楽しむことにして、旅をするには最適な季節、身近なところから始めてみたらいかがでしょうか?

初歩
 実際に出かけられないし、部屋の模様替えもむずかしい方におすすめ  思い切ってたくさんの花を飾ってみるなんていうのはどうですか?

第二段階
 やっぱり出かけられないけど出かけたいナーという方
旅行のパンフレットを並べて、計画を立てて見る。行きたい所を調べていると、ほとんど行ったような気分になってきます。
 お風呂に温泉の素をいれてみる・・・ススキなんか飾ってみるのもいい。そして気力が充実したらでかけましょう。

第三段階
 本格的には行けないけどやっぱり出かけなくちゃという方
 いつも行かない公園やお店に行ってみてもいい、橋の上から山をみると広々としてちがった景色も見えます。もう少し行ける方は八王子なら小宮公園の森?を散策して隣の多摩動物公園の草場あたりを行くと秋の空が広がってお得な気分になれます。

 考え始めると、コンサートに行きたいとか映画もみたいなんていろんなことが浮かんできます。元気をだしてこの秋なにかやってみませんか?


五感に響く

 去る七月二十三日に、ひだまりの家の納涼祭に行ってきました。部屋に入った瞬間に「ワァー」と目に入ってきた物は、赤と白の提灯でした。さらに壁には、ヤキトリ、タコ焼、ヤキソバなどの値段表。雰囲気はバッチリです。音楽担当のスタッフの浴衣姿もさらに場を盛り上げています。水風船の準備も始まっています。後は、利用者さんのみえるのを待つばかり‥

 私は、ひだまりの家のボランティアをさせて頂いて半年以上がたちますが、毎回毎回教えられるのは、スタッフの方々のきめ細かい心使いです。普段のデイの時にも、利用者一人一人に合わせた言葉かけ、活動への導入も一人一人に配慮しています。又常に季節感を持たせてくれる装飾。大きな行事では、スタッフの方が一丸となって取り組んでいます。今日の納涼祭もその一つです。


 利用者がひだまり号から降りてきました。納涼祭とわかってきた方は少ないですが、部屋に入り落ち着き、あたりを見回すと、夏祭りの雰囲気がジワジワ伝わっていったようです。


 まずは皆さんでカラオケ・盆踊り、そしていよいよ出店でのゲーム・買い物です。手作りのサイフの中には、ひだまり銅貨とお札。「じゃあひとつを」と、皆さんも童心にかえったような笑顔でした。


 目(視覚)・耳(聴覚)・鼻(臭覚)・舌(味覚)・手(触覚)

そう、五感にすべて響く行事というか、もてなしだったのだなぁとつくづく思いました。私も参加させて頂けてほんとうによかったです。ありがとうございました。

「ひだまりの家」ボランティア